第0話 「アリスと影ウサギ」

空想と空想の狭間。

それは行間と行間にある場所。

何も書かれていない真っ白な空間に彼女は蹲っていました。

影ウサギ「驚いたな、空白の空間の中で誰かに出会うなんて
ここには何の物語もない。何処かの物語からやってきたのかい?
それとも何処かの物語に向かうのかい?」

女の子「・・・」

影ウサギ「私には時間がなくてね、いつも時計に追われているんだ。
それが私に与えられた「設定」でね、時計ではじまり時計で終わる。
「ああ、忙しい、忙しい」という「台詞」を言わなきゃならない。」

女の子「・・・」

影ウサギ「ここは「物語」の狭間。ここにいても何もはじまらない。
ここにいても何も起こらない。だって物語と物語の間にある空白だからね。
私も急いで「自分の物語」に向かわなくてはならなくては・・・」

女の子「私の「大切な友達」が迷子になってしまったの、その子を探しているの」

影ウサギ「ふむ。なるほど、それは困ったですな。
迷子を探す子が「迷子」では私は何をどうしていいか分からない。
まずは君の名前を聞いてもいいですかな?」

アリス「アリス」

影ウサギ「ほう、その名前には聞き覚えが。
だけど、私の知る「アリス」とは君は違うようだ。
私の知る「アリス」なら鮮やかなドレスを着て、色付いた姿をしているはずだからね。
キミは真っ黒な「別のアリス」だ。」

アリス「私も知り合いに真っ黒い「ウサギ」はいないわ・・・」

影ウサギ「失敬な、私もこんな場所でなければ、高級なベストに金の刺繍。
この時計だって純銀の素晴らしい輝きをしてみせるのだぞ。」

アリス「じゃあ、どうして私もあなたも真っ黒なの?」

影ウサギ「だから言ったじゃないか、ここは物語と物語の狭間。
ここはさっさと通り過ぎて、自分の物語に戻らなければならない。
そうでなきゃ、自分の「色」も、元通りにはならないさ。こんな所じゃあね」

アリス「・・・だって、どうしても「大切な友達」を見つけなきゃ行けないんだもの」

影ウサギ「君はその「大切な友達」とやらを探す為にここにいる。そしてどうやらこれは
「物語のはじまり」であるような気がするのだよ。何故なら私には時間がなくて
そうでもなきゃ、私は女の子を見捨てて行くような失礼なウサギになってしまう。」

アリス「どうしたらいい?私は「大切な友達」を見つけなければいけないの」

影ウサギ「ああ、そうか私の役割は彼等をキミに紹介すればいいのだ。
空想の世界を自由に行き来する事の出来る「彼等」を!なるほどなるほど」

アリス「そんな事が出来る人がいるの?」

影ウサギ「空想という物語の中に登場するのは何も「人間」だけとは限らない。
大空を羽ばたく鳥達、廻遊する魚類、群れを成す偶蹄目
爬虫類に両生類、種類だけでもきりがないさ。ちなみに私はほ乳類
齧歯目にというのだよ。その物語の中に登場する「動物」は
一体全体、何処で生まれていると思う?」

アリス「・・・・分からない」

影ウサギ「あらゆる空想の中に存在する「動物」は全て
Zoological Park(ズーロジカル・パーク)
飼育しているんだ。」

アリス「全部?」

影ウサギ「そう、全部。私も彼等の生み出した「ウサギ」さ。
私だけじゃない、虎も、象も、アザラシも、烏も、イワシも。動物全部さ。」

アリス「全部なんてとても無理よ。だってどれだけ大きな森でも
どれだけ大きな牧場でも、どんなに大きな水槽でも全部なんて無理」

影ウサギ「無理?そりゃそうだ。無理に決まってる。普通に考えればね。
だけど、彼らには広大な森も、大きな牧場も、巨大な水槽もいらない。」

アリス「じゃあ、どうやって?」

影ウサギ「彼等は制約のない「幻想の檻」の中で、動物達を飼育しているんだ。
砂漠に海を作り出し、昼を夜に、夜を昼に変える。
カーテンの裏側に森を隠し時間の制約さえ超越してみせるんだ。」

影ウサギ「だって彼等は「空想の動物商」だ。あらゆる動物を飼育して
それを売りながら旅をしている。全ての物語が商売相手さ」

アリス「その人達なら、私の「大切な友達」を探すのを手伝ってくれるかな?」

影ウサギ「分からない。だけど、彼等なら何か分かるかも知れない。
ああ、申し訳ない。私が手伝えるのはここまでだ。何せ私は
この時計の言うままに動かなければ行けないからね。」

アリス「どうしたらいい?どうしたら、その人達に会える?」

影ウサギ「君が決めればいい。君が探している友達を探す旅に出る事を
決める事が出来れば、きっと「物語」がはじまる。だけどそれは
とても長くて、とても大変な旅になるかもしれないぞ。」

アリス「それでもいいの、どうしても私は!」

影ウサギ「さぁ!開演だ!ここが「キミの物語」のはじまりだ。」

「自分の姿を見てごらん、素晴らしい色のドレスじゃないか。」

「そうだねキミは確かに僕の知る「アリス」じゃない。はじめまして、マドモアゼル」

アリス「でもあなたは真っ黒なままよ、ウサギさん」

影ウサギ「ああ!そうだった!私は自分の物語に向かわなければ!
こんな所で真っ黒なままでいる訳にはいかないのだった!」

アリス「まだ何も分からない!私はどうしたらいいの?」

影ウサギ「私の役目はここまでさ。なんせ時間は待ってくれない。
そうだ大事な台詞を言い忘れている「ああ、忙しい、忙しい・・・。」」

アリス「ねぇ!影のウサギさん!どうしたらいいの!私はどうしたら!」

影のウサギ「「ああ、忙しい、忙しい・・・」」

アリス「どうしたらいいの・・・私、どうしたらいいの・・・」

アリス「・・・」

声「・・・どうシたらと困っタら「団長」に聞けバいイ」

アリス「!」

声「・・・どウしたラと困ったラ「団長」ニ聞ケばイい」

アリス「!」

虹色オウム「困っタら「団長」に聞ケばイい。困ったラ「団長」ニ聞けバイい。」

アリス「虹色のオウム・・・?」

1話へつづく